SESは色んな案件ができて成長できるのでビギナーにおすすめ
と語られるのをときおり見かけます。
ちなみに、本来は SES ではなく下請け開発者という立場だと思いますが、だいたい上記のように語られているので、そう記しました。
ここで、七色の下請け経験(元請けから七次請け)を持ち、ストレスから腎臓のドラゴンボール(腎臓結石)が揃った私が、下請け開発者の立ち位置は本当に良好な成長機会になるのかどうかについてまとめてみることにしました。
注意事項
- 個人的な経験
- 周辺の人達から聞いた話
- Webで得た話
- 元請け側のマネージャーや経営者から聞いた話
などを元にまとめられていますが、あくまで個人の観測範囲を軸にしているので、異なる例も多くあると思います。
発注者からみた下請けに頼む目的
元請けの視点で考えると、外部の会社・個人に開発業務を依頼する理由は、ビジネスとして必要なシステム開発をする必要があるが、正社員に関して
- 解雇が難しい
- 必要な人手が増減する開発に対して正社員を余分に抱えたくない
- 採用が難しい
という点があり、これを解決する代替手段として下請けを活用する、ということがあります。
アサインされる内容の傾向
上記のような目的から、下請けの開発者にアサインするわけですが、とはいえ、
- ビジネスの核となる部分はできる限り正社員に担当させたい
という動機も働きます。
また、ビジネス上の意思決定も大抵の場合は元請けの正社員が行います。
これらを踏まえると、
- ビジネス価値が低いが必要なもの
- ビジネス価値とは別にアーキテクチャレベルの設計は済んでいてあとは、機能を横に増やすだけで、増やす方法もある程度定型化されて難易度の低いもの
のどちらかの傾向になりやすいです。
元請け目線で考えたときに、上記以外の価値ある業務を下請けに流す理由は
- 採用が難しい
に尽きます。その部分を担当できる人が欲しいけどいない。
重要な開発だけど、任せる社内の人間がいない。
そういった理由から仕方なく外に頼む。
このときに限り、よりよい経験を積める可能性が高まります。
下請けに求められるもの
元請けは下請けに即戦力を求めます。
そこには2つの理由があります。
1つ目は想定される業務をできるだけ安く、可能な限り早く仕上げてほしいということです。
2つ目は特に下請けに対して教育を行うことや、下請け人材の成長のためにアサイン内容を調整する、というようなことがないため、最初から該当業務をできることが見込まれる人を欲しがります。
例外的に下請けの成長にも配慮してくれることもあるかもしれませんが、予算を使って人を育てるなら社員に費やす、というのは仕事として考えるなら当然です。
どちらかというと元請けの会社の方針というよりは、たまたまそこにいた元請けの担当者さんの気質によって育ててもらえることもある、というくらいで考えるとよさそうです。
下請けと成長
SESは色んな案件ができて成長できるのでビギナーにおすすめ
と語られることについて考えます。ちなみに、本来は SES ではなく下請け開発者という立場だと思いますが、だいたい上記のように語られているのでそう記しました。
ここで注意なのが、成長の捉え方についてです。
会社に育ててもらえると思うなんて甘い、というような言説があると思います。
もちろん自学は必要ではあると思うのですが、業務を通して学ぶこともあります。
人は、まだ知らない知識・身につけていないスキルを身につけることで成長します。
業務を通して成長するには、今まで経験していない業務を割り振られ、実務を通して身につける機会を得る事が必要になります。
自学するといっても
- 業務で経験する8時間以上の時間で良質の経験をしている人
- 業務ではすでにできることだけをやっていて、業務外に自学する人
との差は歴然です。
ここまでの前提を振り返ってみましょう。
下請けの仕事には以下の特徴があるはずです
という点です。成長ポイント皆無です。
また、契約の関係上「会社間の契約時間の範囲内で極限まで多く稼働させて儲けたい」という意識が元請け側に働きやすい関係性になっていることや、そもそも人手が足りなくて下請けをかき集めている案件は炎上しやすい物が多く
- 稼働時間が長く、自学しにくい
というおまけも付きやすいです。
例えば、よくあるのは 140 - 200 時間 / 月までは同一単価での契約になっているケースです。
この場合、どれだけ仕事が落ち着いていても 200 時間労働させられることがあります。手が空いても契約の利点を活かすべく限界まで仕事がアサインされやすくなります。
要は、多様な案件を経験できると言っても基本はその人がいまできることがベースになります。
そのため割り振られる職務内容は技術的にはあまり変わりません。
変わるのは業務ドメインの内容や、たまたまその現場が抱える課題です。
そこに関して偶発的に学ぶものが異なる、というぐらいのもので案件の多様さが高いスキルに結びつくかと言われると怪しいのではないかと思っています。
心を折らずに挑んでいくことができれば、非常に泥臭い問題解決の能力は磨かれるかもしれませんが。
さらに、ここで大きな矛盾があります。
元請けは即戦力を求めるのに、一般に下請け開発はビギナーが関わりやすいと語られている点です。
これは、
- 元請けが下請けの実力を把握できないことがある
- そもそも「面接」してはいけないはずなので本来は選り好みできない
- 即戦力が欲しいといいつつ、いざ参入するとその後は実力を細かく気にしない事が多々ある。人月単価なので元請けは発注元からお金はもらえる
- 発注元への手前、実力不足の人を参加させてしまったとはいえ、体制図として提出してしまったため、該当の人をすぐに外しにくい
などの特徴があります。
さらにここで
- 下請けが自社の開発者が即戦力であることをアピールするために経歴を盛る
ということがしばしば行われます。
となると現実として起こるのが
- 即戦力として高い水準を求められ、かつ育成にあたるような支援は受けられない
というつらい状況になります。
結果として、自学自習をして、
- 現場で自分しかできない新たな仕事を生み出す
- 現場で明らかに突出した成果を出す
などの成果をもって、自ら業務上の成長機会を勝ち取っていく必要があります。
ここでさらなる矛盾があります。
それができる人はもはやビギナーではないし、この人はわざわざ下請けを選ばなくても成長できる人だろうということです。
つまり、下請け環境で成長できる人というのは、
- 経歴をもられた状況に対して個人的な努力でその差を埋めようとすること
- 多くなりがちな稼働の中でも個人の時間で自己投資できること
- 自らの能力と成果を主張し、新たな機会を勝ち取れること
- 過剰な期待を受け、過剰な労働をしても折れない心身
が必要ということになります。
この人だったら、他の環境でも順調に成長しそうな気がしませんか?
むしろ・・・
まとめ
SESは色んな案件ができて成長できるのでビギナーにおすすめ
という説への違和感を言語化してみました。
じゃあ、どこがいいのかというと良い答えをもっているわけではないですが、2つ語られていることが少ない面があると思います。
- 教育体制を整えるベンチャー
- ベンチャーに関しても新人採用を踏み出して、教育環境を整える企業が増えている
- 教育体制つきでテックカンパーにを目指す内製化組織
- これからテックカンパニーとして、コアのビジネスをIT化(最近だとDXとかで語られそう)するために内製化組織を作る資金的に体力のある会社
というあたりが、「健全な成長機会の場」として機能しはじめるのではないか、と期待しています。
私が知らないだけで、下請けだけど、とてもいい感じに成長機会や成長支援をしている会社もあるかもしれないですね。