ふとしたきっかけで、知人の会社の社長さんと人の成長について意見交換をすることになりました。
その際に、先方の育成理論のベースにダイナミックスキル理論があったようなので、急いで書籍を購入してざっと読みました。
成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法
- 作者: 加藤洋平
- 出版社/メーカー: 日本能率協会マネジメントセンター
- 発売日: 2017/06/15
- メディア: 単行本
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言われてみるとそうだな、というものが多かったのですが、それは改めて読んで気づくことでもあり、言語化の重要さを再確認する書籍となりました。
ざっと紹介してみますので、興味があれば実際に書籍を確認していただければと思います。
なお、件の意見交換会は3時間の熱ある対話になりました。
ダイナミックスキル理論とは?
カート・フィッシャーが提唱したダイナミックスキル理論は能力が多様な要因の影響を受けつつ成長していくものだという考えをベースにした理論です。
この理論以前は、人の能力は階段やはしごのようなイメージで線形的に成長していくと考えられていました。
実際は、多数の要因の影響を受けながらダイナミックに成長していきます。
「 発達の網の目 」と呼ばれています。
例えば、なわとびのあや二重跳びは
- ジャンプをすることができる
- なわをまわすことができる
- ジャンプをして前跳びができる(ジャンプしながら縄を回すことができる)
- ジャンプをして二重跳びができる
- ジャンプ中になわを交差する
- ジャンプ中に交差したなわを戻す
- 交差跳びができる
- あや跳びができる
- あや二重跳びができる
が絡み合ってできています。 これは、前提条件の関係だけではなく、例えばあや二重跳びができる状態に到達することは、その他の能力も高めることになる、というような関係性もあります。 もしかしたら、交差二重跳びを練習していなくても、先にあや二重跳びができたら、一発で交差二重跳びができるかもしれません。
ここには一方向ではない成長もあって、例えば、あや二重跳びがうまくなったときには、おそらく前跳び・二重跳び・交差跳びの質もあがります。
依存性と変動性
能力の成長は、以下のようなものに依存し、能力の種類やレベルが変動します。
- 環境
- 課題
- 心身の調子など、自身の状態
例えば、環境が異なる例としては、なわ跳びの例なら平らな場所で行うのと、凸凹な場所でやるのとでは必要な能力が異なります。
凸凹な場でやる場合は、なわがイレギュラーな動きをした場合に補正する縄さばきや、ちょっと余力をもたせて高めにジャンプする能力が必要になりそうです。
例えば、課題として一人で飛ぶなわ跳びと大なわ跳びでは必要とされる能力の種類が一部異なります。
例えば、その日の体調によっていつもはできる二重跳びができないかもしれません。
例えば、二重跳びをできるだけ多く飛ぶ場合も結果は一定ではありません。
そして、能力の成長は変動とともに訪れます。成功と失敗を繰り返しつつ、安定した成長・習得にたどり着きます。
意図的に発生する変化を変動性と呼び、学習・実践中に不可避に発生する変化をノイズと呼びます。
ここで重要なのはノイズに敏感になることです。
先程の例で言えば、凸凹のせいでうまく縄跳びができないことに気づかないと上達の妨げになります。
こどもなら、例えば妹が姉のなわとびを借りたせいでうまく飛べないが、それに気づかないということもありそうですね。
無意識であるノイズが意識に変わると変動性になります。すると、より意識的に成否状況を認識しやすくなります。
サブ能力
1つの能力を構成する小さな様々な能力をサブ能力と呼びます。
何かの能力で実際に役立つスキルを得たい場合、必要となるサブ能力を明確にすることが鍵になります。
漠然とした能力ほど、習得が難しく、小さく分けられたサブ能力ほど習得が容易になります。対象の環境や課題によって、必要なサブ能力は変わります。
例えば、なわとびを上達する理由が学校での実技試験に合格することであれば、学校の実技試験外の技を覚えても役に立ちません。
逆になわとびの競技会に向けて練習するのなら、その種目になっているものを練習する必要があります。
自分に必要とされる範囲のサブ能力に絞って細分化することが求められます。
最適レベル・機能レベル・発達範囲
人は、より上位の実力を持つ他者とともに取り組むと本人一人で行うよりも高いレベルの対象に取り組むことができます。
他者からサポートを受けて発揮できる能力レベルを 最適レベル と呼びます。
単独で発揮できる能力レベルを 機能レベル と呼びます。
この差を 発達範囲 と呼びます。
省略する要素
以下のような要素も書籍では語られています。大枠で紹介し、詳細は省略します
- 成長と時間 - マクロ・メソ・ミクロな成長
- フラクタルな成長 - 点・線・面・立体の成長サイクル
- 質的成長と量的成長 - 能力を網の目でみたとき、ノードが増えるのが質的成長。網が大きくなるのが量的成長
- 能力の成長に関する5つの法則 - 統合化、複合化、焦点化、代用化、差異化
- フィッシャーの5つの能力階層 - 反射階層、感覚運動階層、表象階層、抽象階層、原理階層
- フィッシャーの13の能力レベル - 反射階層 x 3、感覚運動階層 x 3、表象階層 x 3、抽象階層 x 3、原理階層 x 1 = 13レベル
- 抽象性と再現性 - 抽象化は再現性を高め、教育可能性になる。他の場面で代用化できる
- 既存の能力開発の問題点 - 変動性の無視、実践環境との差異の無視、スキルが多様なサブ能力の集合であることの無視等
- ノイズの種類 - ホワイトノイズ、ピンクノイズ、ブラウンノイズ
- 最近接発達領域(Zone of Proximal Development - ZPD) - 一人ではできないが、他者からサポートを受ければできる領域のこと
- スキャフォールディング - 成長プロセスの足取りのための支援
- 直接的スキャフォールディング - ペア作業など
- 間接的スキャフォールディング - 見本を見せる、助言、理解の確認など
- マインドフルネス瞑想 - 意識の発達、質の成長
- フロー状態 - 課題のレベルが能力レベルより程よく高いと発生しやすい。構図としては ZPD と似ている
- リフレクション - コルブの経験学習。内省だけではなく、内省・概念化・実践、まで連動していることが重要
- システム思考 - 従来のシステム思考は関係性の理解が目的だが、発達心理学においては自分の頭で概念システムを構築するより高度な思考
まとめ
成長に関わる大量の要素が登場するこの書籍をもとに、任意の領域における人の能力を成長させる方法について考えてみます。
- 能力そのものの育成
- 成長度の育成
の二つにわけます。
能力そのものの育成
- 伸ばしたい能力を用いる環境と課題を明確にする
- 環境と課題で求められる能力をサブ能力に細分化する
- 本人の現在の能力を明確にする
- 一人ではできないが、メンターと一緒ならできるサブ能力をメンターのスキャフォールディングとともに身につける
- この状態は ZPD かつフロー状態になりやすいラーニングゾーンを想定している
- 伸ばしたい能力と育成環境・課題を可能な限り近づける
逆にいうと、ありがちな失敗としては
- 「マネジメント能力を自発的に伸ばすように」というあいまいな指示や前提情報の不足
- 元の能力が異なる新人に全く同じ研修メニューを適用すること
- たまたま難易度が一致したものだけ嬉しいが、簡単過ぎて退屈したり、難しすぎて不安に押しつぶされる人がでてくることになる
- メンターをつけずに各自に任せること
- 人により伸びることは伸びるが、伸びる速度が遅くなる
- 研修のための研修になっていて、実践と紐付いていない
などですね。
成長度の育成
- マインドフルネス瞑想で意識レベルを高める - EQ の強化、ノイズの自覚力の向上
- リフレクションで体験を経験に変え、概念化することで以降の再現や代用性を高める
これらは、学習領域に限らず本人の成長速度自体に影響する要素と考えられます。
マインドフルネス瞑想とその成果の因果関係の確認が難しいですが、少なくともリフレクション(ふりかえり)による概念化はやって損はないように思います。
例えば、プログラミングしているときは、二分探索できるけど、プログラミング以外の問題解決の際に二分探索の発想がでてこない状態は概念として捉えることができていないのかもしれませんね。そこで、概念化できれば、適用可能になるわけです。
補足
組織づくりの転職希望ということもあって、こんな感じの領域をひたすら学習しています