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Employee Experience Engineer tbpgr(てぃーびー) のブログ

中途採用における「わかりにくい採用課題」へのアプローチを求人・求職双方の視点から考えた

なぜか、採用される側なのに採用方法を考えていた人です。
ホントダメですね、この人は。

企業の求めるもの

企業が採用に求めるものを荒い粒度で表現すると、

前提として自社の文化にマッチし、個別の職種に依存しない共通の採用水準を満たしていて欲しい。そのうえで、今、必要な課題を解決するのに必要な人材が欲しい

これだと思います。
この記事では 前提として自社の文化にマッチし、個別の職種に依存しない共通の採用水準を満たしていて欲しい。 の部分は省略します。
今、必要な課題を解決するのに必要な人材が欲しい の部分のみを扱います。

※なお、実際には採用時点で企業側が必要な課題であることすら気づいていなかったことを気づかせてくれるほどのレベルの高い人、というのもいるかもしれませんが今回は対象外とします

この「今、必要な課題」にはちょっと広めの解釈を含めています。
例えば、組織が「今後、人材の質が前にも増して重要になり、かつ採用が厳しくなってくる」と考えていて、要件に一致するレベルの高い人材がいたら、そのポジション自体に関して直近不足を感じているわけでもないが採用する、ということもあると思います。これは「いい人材を確保すること」事自体が「今、必要な課題」と考えるものとします。

その上で、ミスマッチのない採用のために問題となるのは課題の種類とそれによって難易度が異なる課題の明確化ではないかと考えています。

課題の種類と明確化

わかりやすい採用課題

例えば、

  • 既存のサービスの拡大
  • サービスの増加
  • 欠員補充

などにより既存の職種の人数を増やすような課題の解決手段として採用をするケースです。

この場合、もともとどういった役割・責務があり、そのためにどのような知識・スキルが必要かわかりやすいため企業が人材に求めるものを明らかにしやすいです。

ただ、ここでも Job Description やそれにあたるような役割・責務を明確化していない組織の場合は、人材に求める要件が曖昧になり、募集内容・選考基準も揺らぐものと考えられます。
曖昧なケースの究極系としてフルスタックでプロダクトマネジメントもリードエンジニアとしての役割も人材採用も人材育成も朝飯前にできる人だけを年収 400 - 500 万くらいで欲しいよね、みたいな、全部合わせたら年収 2,000 万くらいあってもお釣りがくるんじゃないか、みたいなペルソナができあがります。結局、自分たちが何を求めているかわからないので全部あれば安心、ということになってしまうのでしょう。

課題+そこに求められる知識・スキルの明確さと採用のマッチのしやすさは以下のような関係になるのではないかと予想します。
なお、この時点では企業側からみた側面のみに注目しています。

採用課題の明確さ/知識・スキルの明確さ 不明確 明確
不明確 宝くじ - ※1
明確 ミスマッチしやすい マッチしやすい

※1 - 採用課題が不明確な時点で知識・スキルは明確になりえない

採用課題の明確さがベースにあり、その上に知識・スキルの明確さがあるので、上記のようなマトリクスになっています。
実際にはここにさらに「的確に伝えること」という点が加わります。
まとめた内容を候補者対して正しく伝える事が必要となります。
ここで注意が必要なのは「相手は企業に関する前提の多くを知らないこと」です。
自分自身が普段から知っていることはついつい当たり前のものとして省略しがちです。気づかないうちに、社内でしか通じない専門用語を使ってしまうこともあるでしょう。説明資料や、説明スクリプトについては、その点を第三者目線でレビューしておく必要があると思います。

ここで求められる選考内容としては、明確化した役割・責務に必要となる知識・スキルを相手が実践可能なレベルで持っているかを確認することになります。
具体的には、

  • 面接をもとに経験を聞き出し、その信頼性を評価すること
  • 現実の業務に近い実技試験

などになるかと思います。
面接については構造化面接が有効とされているようです(採用のプロではないのでよくわからない)

www.hrreview.jp

実技試験についてはやっていない所も多いと思います。 WST とか面白いです。

tbpgr.hatenablog.com

わかりにくい採用課題

組織内で新たに発生した課題や、はじめて解決に向かって立ち向かうことを決意した課題があり、内部にはそれを担当する意欲や知識・スキルを持った人がいない場合に、解決手段として中途採用をするケースです。外部から顧問をやとって解決するケースもありそうですね。

例えば、チーム分割の結果、部分最適化してしまって別々のチームが重複した機能を作ってしまっているので、横串で共通機能を作ってくれる共通基盤チームを作りたい、などのようなケースです。
※あくまで例示なので「安易に共通基盤とかつくるとそれはそれで大変なんだよ!」みたいなツッコミは不要です

このような場合、まずは問題構造を明確化する必要があります。
以下のような 現状・理想・問題・要因・解決策・想定される結果 という構造を明晰に説明できる必要があると思います。

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先程のチーム分割の例であれば

## 状況
組織の拡大に伴ってチームを分割した

## 問題
チームの分割に伴い、開発内容が部分最適化されている

### 要因
* 横串で開発する主体がない

## 解決策 (=課題)
共通基盤チームを立ち上げる

### アクション
* ◎共通基盤チームのリーダーを採用する
* リーダーが以降の戦略を決める

## 想定される結果
* 開発内容が全体最適になり、組織全体のスループットがあがる

◎の部分が課題解決のアクションとしてのリーダー採用です。
おそらくこのリーダーには、

  • 共通基盤に当たるものを開発した経験や、それに関わる知識・スキル
  • 戦略を練って自発的に物事を解決していけること
  • 多数のステークホルダーと良好なコミュニケーションをとれること
  • チームメンバーの採用を期待できる人物であること

などが求められるでしょう。

このように、採用課題の構造と、この役割に必要な能力を推測し、候補者に求める内容を決め、求職者に対してこれを明晰に説明できる必要があります。

個人の求めるもの

個人が転職に求めるものを荒い粒度で表現すると、

今の所属内では満たすことのできない個人の何らかの動機を満たしてくれる場が欲しい

だと思います。
これは、不満のある場からの脱出ということもあるでしょうし、自身のキャリアの実現のためにそれに必要となる機会を求めるということもあるでしょう。

個人の動機

  • 1,000兆円欲しい
  • リモートワークで家族と同じ時間をすごしながら働きたい
  • ソフトウェアの力で人類の無駄を減らすことに貢献したい

種類は様々あると思いますが、何らかの動機があるでしょう。

個人はこれらの動機を満たしてくれる企業を選ぶことになります。
この動機が曖昧なほど、企業選びや採用面接時のやりとりが難しくなるでしょう。

個人のできること

個人は企業がそのポジションに求める知識・スキルを可能な限り満たしている必要があります。
また、応募時点ではできない部分があっても、入社後にキャッチアップできる人物であると思ってもらえる必要があります。

企業とのマッチング

個人から見てミスマッチのない転職のために問題となるのは個人の動機とできることがどれだけ明確か、という部分になります。

個人の動機/個人のできること 不明確 明確
不明確 いきなりお祈り ※2 ミスマッチしやすい
明確 ミスマッチしやすい マッチしやすい

※2 - nitt-san さんの「 いきなり1on1 」が元ネタ

実際にはここにさらに「的確に伝えること」という点が加わります。
動機 であれば、誤って伝われば入社後に「思ってたのと違う」となるでしょうし、 できること であれば小さく伝われば不採用や入社時点での評価の低下、大きく伝われば入社後の苦難が待っていることになるでしょう。

企業と個人のやりとり

上記を踏まえて、

  • 個人の転職動機
  • 企業の採用課題

を重ねるべく、面談・面接でやり取りをしていくことになると思います。
ここで難しいのは、どちらもいつも万全の状態まで到達しているとは限らないということです。

個人は自身の転職動機・できることを「なんとなく」の粒度までしか落とし込めていない場合があります。
企業はその採用課題を「なんとなく」の粒度までしか落とし込めていない場合があります。

それでも相互にとって魅力的に見えた場合、既存の面接の枠にとらわれずその場で情報を引き出す必要があるのではないかと考えました。

個人の転職動機

企業側からみて、能力的にかなり魅力的な候補だ、がどうも動機がはっきりしない場合に、問いかけによってそれを引き出すことができると判断しやすくなります。
逆に個人から見て企業の採用課題と求める知識・スキルが曖昧な場合は、該当ポジションの業務をできるだけ掘り下げて質問することで求められるものを引き出し、自身にそれができる能力があることを説明しやすくなります。

企業の採用課題

企業の採用課題が前述の「わかりにくい採用課題」の場合は、明確化への努力に向けて企業と求職者が協力する必要があります。
もちろん、これは本来組織側の責務ではあるのですが、入社するかもしれない組織である以上、求職者も自分事で掘り下げる必要があります。

相互に協力し、企業が直面している問題を明確化する。
その上で、そこに必要となる能力が明確になり、応募者は自分がその能力を持っていることを説明する。
場合によっては WST などの実技試験を受けることで証明する。

求職側がこのように掘り下げていくことは、あまりないのではないでしょうか。
場合によっては「この会社は何をしたいのだろうか?」と思いつつ、面接の質問に答えるだけ、ということもあるのではなaいでしょうか。

まとめ

学習する組織づくりに関わる役割への転職活動ということで、基本的に「わかりにくい採用課題」に対して多数のカジュアル面談、面接をしてきて感じた事からの発想を言語化してみました。

求人側と求職側がホワイトボードに向かって問題構造を明確にしながらあれこれ話し合う。その過程自体を評価対象に含める。
そんな採用方法がひょっとしたらいいのかも、ということを考えました。
採用のプロではないので、実際にこれがいいものなのかわからないですが。
また、このアイデアに限らず、適性検査・面接以外にもよりよい選考手段はありそうで、既存の枠内だけで考えずに「採用」というものを「自身の頭」で考えることができると、競合優位性のある人材採用の仕組みをつくれるのではないか、と未来の自分の職場を想像しました。

なお、この明確化のプロセス自体、スキルであり、場合によっては応募ポジションで本来求められているスキルよりも難しいものかもしれない、と考えるとこの記事は絵に描いた餅かもしれませんね、と思ったり思わなかったりしました。

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