nitt-san さんが継続して実施している「いきなり1on1」のレポート記事をいつも楽しみに読んでいます。
このとりくみに限らず、良質のコーチングでは、クライアント(コーチングされる側)だけでは気づくことができなかった問題に対して、コーチが問いかけることでクライアントが答えに気づくことを促すことができます。
これによりクライアント自身が今悩んでいる対象の目指すゴール、現状、その間にある障壁や、それを解消するために必要なことについて気づき、自発的に、自分ごととして取り組んでいくことができます。
以下の図のような問題解決の構造の各要素が明らかになってくるのでしょう。
この 1 on 1 を最近接発達領域の視点から考えてみることで、他者の力をかりた成長について整理してみようと思います。
最近接発達領域(ZPD)とは?
最近接発達領域は Zone of Proximal Development (ZPD) のことで、ロシアの心理学者であるヴィゴツキーが考えた概念です。
この概念は学習者が何かを学習する際に、助けを得てできることと、自分ひとりでできることの間には差があり、その差を表しています。
なお、当時の研究対象としては子どもの学習が対象だったようです。
さらに、ヴィゴツキーが早逝だったこともあり、この概念の解釈は揺れているようです。
実際の最近接発達領域をリストアップする
2019/03/06 時点で全15回分公開されている実施レポートから最近接発達領域が発生していると思われる部分を確認します。
1回目
改めて自分の考え方を言語化できたので良かったです
2回目
具体的なアクションが出てそれに賛同をしてもらえてすごく嬉しかった。漠然と計画はしていましたけど、はっきりとやろう!という後押しになりました
3回目
自分で悩んでいたこと・考えていたことについて口に出す機会を設けていただいて感謝しています。いろいろお話しているうちに自信が持てました。引き出すのがうまいなぁと思いました
4回目
直近悩んでいたことに対して、思考していたことをとりあえず全部受け止めてもらえて、なおかつ見えかけていた行動したいことに背中を押してもらえた
5回目
頭の中にあるボンヤリしたものを整理し、行動すべきか悩んでいることについて、行動することで起きるメリットをひとつひとつ検証し、最後は尻叩き
6回目
最近悩んでいたことが会話の中で整理されて解決に向かうことができたので、心が軽くなりました
7回目
『自分のキリのいい年齢までにどうなっていたいかのビジョン』を持ってもらい、『そのために今出来ることはなにか』を探りました。 また『放っておいても迫ってくるマイルストーンはどこか』を再確認し、『それまでに自ら決断すべきことは何か』を明確にしてもらいました。 これにより、直近1年ほどは、あまり迷わずに動けるようになってもらえたんじゃないだろうかと感じます
8回目
この回はコーチング的には反省回だった模様? アドバイザーとしてなら成果あり。
9回目
予め考えていた以上のことを持ち帰ることができた。短期的なアクションプランと長期目標が同時に生まれた
10回目
カウンセリング回だった模様
11回目
「これ1on1する必要あるのかな…?」と言っちゃった通りなんですが、自分のやるべきことを認識している人なので、次のアクションを立てることをサポートする必要も特にありません。 こういうケースは完全に初めてで、コーチ側が何をすべきなのか、実施中に見出すことが出来ませんでした
この回はある種「最近接発達領域」が狭かった、と言えるのかもしれませんね。
12回目
話をすることで気づきを得ることだけでなく、アドバイスをもらうことができ、有意義だったと思います
13回目
私の悩みの真因は「焦り」「劣等感」だったのですが、自分自身焦っている感覚や劣等感を感じていると思っていませんでした。 当日まで苦しく、悩んでいたことが解きほぐすことができ、精神的にとてもフラット(楽?)な状態になることができました。 次のアクションも決まりました
14回目
あわなさんですが『プライベートにおけるアウトプット関連のタスク管理がうまくいかず、どうにもいつも締め切り駆動になってしまうので、メンタル的につらい』と悩んでおりました。 しかし話を聞くと『最近、会社のスクラムでタスクを可能な限り細分化する事で、タスク管理がうまくいくようになった』とのことでした。 じゃあ、会社のやり方をプライベートでもやってみればいいのでは?という事で、プライベートスクラムを試してみましょうと。 そのままその足で100均へ行き、壁かけボードと付箋を買い、スクラムボードの準備が整ってしまいました。
15回目
自分のあいまいにしか考えられない部分を補っていただくと、ここまで整理されるのか、と感動をおぼえました
コーチとクライアントの最近接発達領域
コーチは問題解決の構造を理解しています。
- ゴール・現状・その間にある問題を明確にする
- 問題を要因に分解し、真因を見極め、それぞれの内容を明確にする
- 個別の要因を課題として捉え、解決策を検討する
- 解決策をより具体的なアクションに落とし込む
- アクションの計画を決め、実施していく
これがわかっていて、さらに実践で使いこなせる状態を 10 とします。
問題の解消のためにはこういったことが必要になり、問題がそのまま留まっていた 1 on 1 前のクライアントは上記のような考えに不慣れであると予想されます。
上記のような枠組みで物事を考え、そのためには各要素をできるだけ明確にする必要がある、ということをコーチングの場を通して暗黙的に学び、その後の現実生活で磨いていくことで自走して問題を解決していけるようになるのでしょう。
実施前の状態では仮に問題解決への理解度が 5 だったとします。
終了時には実際に抱えている問題の明確化という成果の他に、問題解決自体に関して元々は 5 の状態だったのが、 10 の状態である nitt-san さんの力を得て 10 の世界を味わうことで 7 や 8 へ引き上げられたのではないでしょうか。
この、 5 - 10 の間が最近接発達領域です。
結果として、
「ああ、あのときに nitt-san さんはあのような問いかけをしてくれて物事が明確になっていったな。私もやってみよう」
そういった感じで、新たな問題に対処できるようになるのだと思います。
まとめ
1 on 1 でのコーチングの成果には2つの側面があるように思います。
クライアントが直近困っていることの解決です。
もう一つは、クライアントが、その後自分自身で問題を解決できるようにすることです。
この記事をまとめようとしたのには理由がありまして、私が開催している成再会というコミュニティで、問題解決力を身につけるための回を1回実施しました。
まだ、問題の明確化フェーズですが、根本的には nitt-san さんの取り組みと通じるところがあるなと。
こちらはどちらかというと問題解決力の学習側が主になっていて、そのために現実の問題をお題にさせていただいた面があります。
そのため、現実の問題を扱いつつも、問題解決の構造自体も説明していっています。
また、形式としても 1 on 1 ではなく、多人数が参加したグループワーク形式になっています。
ひょっとしたら、 nitt-san さんの 1 on 1 にでたあとに、成再会の問題解決のグループワークに参加する、というようなステップをつくれるといいのかもしれないな、ということを思いました。
また、この話は企業における「自走できる人材」の育成にも関わります。
自分で問題を明確化できて、要因分析ができて、解決策の立案ができて、行動に落とし込むことができる人って、おそらく自走できると思うのです。
ということで、 nitt-san さんは いきなり1 on 1 に参加した人の自走力を高めることで、参加者の所属企業に間接的に大きく貢献しているのでは、ということを思ったので各企業さんは nitt-san さんの wishlist に生ハム原木を送ると良いなと思いました(冗談です)